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この手で終わらせてやるんだ。鬼が僕だというなら何だってするよ。それがキミの望みだったんだろうキョク。僕は薄暗い壁の一部に手を当てる。
手の感触だけでは何も分からないけど、壁に細工は無いと思う。それなら、二人は何処に隠れているか。鬼に与えられたヒントは何も無い。 何の手掛かりも無く誰かを探す事に慣れていないわけではないけど、何というか、面倒くさいよね。そういえばキョクは自分の裏職業は呪術士だって言ってたから、彼女が死んだ今、キーアの呪いは解けたって事になるのかな。それにしても本当に何処に隠れてるんだろう。ちょっと動いてくれたら音で見つけられるのに。あー、面倒くさーい。 あ! そうだ。かくれんぼをした時にする掛け声を言えば、それがヒントになるかもしれない。僕は上着のフードを被り、静かに言う。 「もういいかーい?」 答えが帰って来るか分からない。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」 僕は足元から聞こえた小さな声にならない声がルーアのものだと確信した。リョクなら何も言わないか叫ぶかのどちらかだから。助けるには床を破壊しなくちゃならない。でも僕の力じゃ歯が立たない。でも助けるためには自分が怪我をしてもいい覚悟が必要。天井を見上げて掴めそうな場所を探す。 にしても暗いなあ・・・。しょうがないや、天井部分まで飛び上がって一気に加速しながら落ちて床を潰そう。深呼吸をして息を正して僕は飛び上がった。何メートルあるか分からない天井へ辿り着くと、背中が勢いよく天井に当たった。そこから今度は地面に叩き落される。 それは一歩間違えば死。間違いやしないよ、僕は殺し屋だから。 「おりあああああああああああああっ!!!!!!!!!」 ゴツッ 全体重を掛けて落ちた床に穴が空いた。代わりに僕の左足からは血が流れてそうだ。でもブーツ穿いてて良かったよ。そうでなきゃ、確実に骨折れてただろうし。 「あ」 「あの・・・もしかして鬼ですか?」 穴から一人の女の子が出てきた。その子は、キーアを女の子にした様な雰囲気の子。そっか、この子がルーアなんだ。 「あの・・」 「うん。鬼」 「見つけてくれて有り難うございます」 僕はヒラヒラと手を振って、「いえいえ」と言った。ルーアは扉の方へ歩いていく。 「鬼に見つかった人は、此処から逃げていいんです。だから、私は逃げます。えと、有り難うございました」 ルーアは僕へお辞儀をして去っていく。そういえば、ルーアは変わった能力を持ってるとか誰かが言ってた様な・・・。でもいいや、リョクが見つかれば。床にいないなら、何処にいるのさ。周りの壁の中には絶対いない。 なら何処に―・・。 僕は上を見上げた。まさか天井裏にいるんじゃないよね!!? 5~6メートル程ある天井。そこに隠れるのは無茶だ。なら隠れる事が出来る場所は何処になる・・・。キョクは、死ぬ前に「やっと解放される」と言っていた。解放される・・・? そうか!! 僕は、急いで建物を後にする。そして出た場所に「業火」が落ちていた。 来た時には無かったはずの名刀「業火」。 それはリョクが近くにいるという証拠。「業火」を拾った僕は辺りを見渡した。 PR
無残な姿で散らばっている人間の中に、たった一人だけ無傷でいる人間がいる。黒い布を被せられ、小刻みに身体を震えている。血の匂いが充満する場所に、放り出されて格闘でもしたつもりかな。キミは人間を殺そうとでもしたのかな。でも叶わなかったんだね。キミに人間を殺そうとする事は出来なかった。キミが行動した事は無碍ではないけど、人間を潰しただけだね。そう殺してはいないんだ。潰しただけなのだから。
世界で一番怖がりなキミは頑張ったつもりかもしれないけど、キミは馬鹿だから。 だから詰めが甘いんだよ。ねえ、死刑執行でも見せてあげようか? ああでも、まだゲームは終わっていないね。鬼に見つかれば終わりの残酷なゲームが。僕は震えている馬鹿の傍に名刀「業火」を置き、「雪の人」をホルスターから抜いた。願わくば、散弾銃が欲しい。 ・・・違う違う!! 願わくば、馬鹿の震えが止まりますように。だ。でも僕は「雪の人」を捨てた。いらないんだ。「雪の人」を使わなくてもいい。 僕は小声で歌を詠唱する。二つの色の言の葉が僕の左腕に絡み、鮮血色の言の葉だけが残った。その言の葉は、立ち上がろうとする死にかけどもの身体に絡みつき、形態を槍状へと変え、彼等の肉体に突き刺さっていく。 それを呆然と見ている僕を馬鹿が抱きついて、離れない。言の葉は役目を終えて消滅した。死にかけどもは息絶えた。手を汚さずに済んだけど、目の前に広がる鮮血の海は広い。でもどうしてだろう・・・悲しいんだ。 悲しいけど、涙は出ない。これは鬼になった者の宿命なんだろうか。 キョクはこれを望んでいたから、此処に僕を呼んだのかな。 エリア10に来た僕が一体何をすべきだったのか分からないよ。 「レキ・・・・」 「みつけたよ・・・・・・馬鹿リョク」 「・・・馬鹿じゃないけど、みつかった」 リョクは僕から離れて、僕の腕を引く。でもね足が結構痛いから、止めて欲しいんだ。だけど、言わないでおくよ。 エリア10へ入る所まで戻るのに小一時間くらい掛かった。そこには、眠そうにしているコーマとシェルの間にルーアとキーアがいた。 キーアは、リョクと同じくらいか少し高いくらいの身長の少年になっていた。それが彼の本当の姿なんだね。そして彼は僕に「ありがとう」と言った。僕は何も言わなかった。ううん。言えなかった。だって僕は人助けをしていない。ルーアを助け出したのは人助けかもしれないけど、僕は殺し屋だから。僕がエリア10で行った所業は、全て殺人。 僕はシェルの前まで、ギリギリの体力で歩いた。 でもそこで意識は飛んでしまいそうだった。それを堪えて命令をする。 「掃除屋と壊し屋を至急此処へ。作業が終わり次第エリア10を完全封鎖。それから、生存者全てをエリア8の居住区に。いいね、シェル」 「了解」 シェルは、急いでエリア1に戻る。次はコーマ。 「リョクと先に家に帰って欲しい」 「えーけど、レキはバイクでええんやな?」 「うん。僕はもう一人の馬鹿と話してからすぐに帰るから」 「ほんなら、行くでリョクはん」 「い、嫌だ!!!!」 リョクが駄々をこねる。駄目だよリョク。僕の気が変わらないうちに行くんだ。 「連れて行け・・コーマ」 「了解」 リョクはコーマによって車へと投げ込まれた。 車は、とても速く去っていく。僕はルーアとキーアに生き残った者達を連れて来る様に指示をして、馬鹿を呼ぶ。 「捜索屋ノイズ七代目、楽観=スズ。聞きたい話があるから出て来い」 「ボクも話したい事があるよ、推古=レキ。殺し屋ヴォイド四代目様」 スズはボクの前にヒラリと現われて、ニッコリと微笑んだ。その笑みは、ゲームが終わっていない証拠なのかな。スズは、静かに口を開いて、静かに言う。 「ゲームの幕は閉じていない。このゲームはまるで終わりの無い夢の様に連なって―・・・」 僕は、その言葉をしっかり聞けなかった。僕の身体はスズの方へと倒れていた。体力の限界ってやつかな。スズが僕の名前を呼んでいる様なそんな声が聞こえる。ただその声がどんどん遠くなっていく。 かくれんぼ・・・か。鬼に見つかれば終わりの残酷なゲーム。 その鬼に選ばれた僕は何をすればいいというの・・・・祭儀=キョク。 十一話 かくれんぼ End
エリア10で大変な目に遭ってから二日が経過した。あの日エリア10から戻ってきた僕たちは疲れ切っていたし、僕は僕で意識がほとんど無く、左足に負った傷が思ったより悪く、翌朝診察してもらった医者に「完治するまで自宅安静」と宣告された。ぼんやりと庭を眺めている視界の端にスズの姿が映った。
「何か用ですか、スズさん。」 「元気かなーと思って来ただけさ。」 スズは僕の左隣に座って同じように庭を眺める。 「リョクがレキなんか大嫌いだーって言ってたけど、アレどういう意味だと思う?」 「さあ? 嫌いなら嫌いになればいいんじゃないの? 僕の知ったことじゃないよ。」 スズは、はあ、と溜息をつく。 「でも。リョクに渡してほしいものがあるから、届けてくれない?」 僕がそう言うとスズの顔は途端に明るくなる。 彼は、ユーラシア大陸にある「捜索屋」と呼ばれる組織の中でもトップクラスの一人だ。その彼に一人の人間を捜し出すことなど意図も簡単な事だが、それでも嬉しそうに引き受けてくれた。 「渡すものは、コレ。」 僕は首から下げていたネックレスをスズへ渡す。彼は僕の家を後にし、僕はまた庭をぼんやりと眺める。そこへロキがお菓子を頬張りながらやってきた。 「ねえ、ロキ?」 「何だ?」 ロキはお菓子が入っている器を僕と自分の間に置く。 「僕は特に何も考えず「夢追い人」になった。でも本当の意味での「夢追い人」を知らない。この際だから教えて欲しいんだ。」 庭を眺める目をロキへ向ける僕に彼は少し考えつつゆっくり話し始めた。 「「夢追い人」は、今ある世界を破壊して新しい世界を創造しようと動いている「夢喰い人」を止められる唯一の存在だ。そして「夢喰い人」は「夢追い人」を自分たちを追いかけることから、「鬼」と称した。それがお前だ。」 ロキは庭を眺めて言い、もう一つを言いかけようとして、それを母さんが止めた。 「「夢追い人」は今世界に四人だけいるの。だけどそれだけじゃ「夢喰い人」を止める事はできなくて、母さん達は、レキ、貴方に何も教えずに「夢追い人」として歩く道を選ばせてしまったのよ。そして、一度「夢追い人」となった者は、全ての「夢喰い人」を殺すまで「鬼」という存在の放棄を認められない。」 母さんの声は、いつもより何十倍もの重みがあったけど、全部を言い終えると、いつもと寸分違わない表情でニッコリと微笑んだ。ロキは僕の隣でお菓子をただ静かに食べ、僕はぼんやりと庭を眺めていた。 レキはいつも、いつだって一人で悩んだり考えたりして、オレには何も相談してくれない。 オレは馬鹿で要領も悪いけど、話を聞いたりなら出来る。 セントラルに来て、レキは忙しそうだった反面オレは普段とそう変わりなかったけど、セントラルはオレよりずっと有名な人間が多くて、余計に一人ぼっちに感じた。 「仁義=リョク!」 道を歩いていたオレを誰かが唐突に呼び、振り返ると楽観=スズがそこにいた。コイツは、レキによく似てて、初めて見た時レキと間違って、オレは酷く怒られたっけ。 「レキから預かりもの!」 スズはそう言ってオレにネックレスを渡した。それは昔オレがレキに渡した物だった。 「アイツ、何か言ってたか?」 少し俯き加減で言うオレに対してスズは 「さあ? 嫌いなら嫌いになればいいんじゃないの? 僕の知ったことじゃないよ。だってさ。」 嫌い・・・かよ。 「あ。そういえばリョクって夢追い人じゃないんだよね?」 何だ、突然。 「ああ。オレは魔剣士だからな。」 スズはオレの顔をまじまじと見る。ちょっと身を引くオレに彼は、 「それならリョクは選ばないといけないね。じゃあ、ボクは別の仕事があるからー!」 少しだけ低く落としたトーンの声で言って足早にオレの前から姿を消した。 「選ばないといけない」という言葉にオレは引っかかった。オレはレキと一緒に旅をしてただけで、レキと違って夢追い人じゃない、ただの魔剣士だ。レキに会うよりも、こういう時は・・・。 「俺が適任だろ?」 まぶしいばかりの笑顔を周りにまき散らしているロキが突如目の前に現れた。そしてオレの手を引き広場へと歩いてゆき、適当なベンチに腰を掛ける。隣に座る彼の顔は「何があった?」という顔だ。 「スズが言ってたんだ。オレは何かを選ばないといけないって。」 オレ自身、自分で口に出した言葉の意味が何を含んでいるのか分からない。すると彼はゆっくりと話し始めた。 「世界で最も有名な殺し屋当主レキの今の職業は、夢追い人。この職業は、この世界を破壊し、新たな世界を創造しようとしている「夢喰い人」を止められる唯一の存在だ。お前にも分かるように言えば、夢喰い人と夢追い人は、遊びで言う「おにごっこ」に似たものをしていて、その鬼が「夢追い人」にあたる。分かるか?」 一度首を縦に振るオレに、ロキは続ける。 「夢追い人は、今この世界に4人だけだ。そして、夢喰い人と戦う為に必要な特殊な能力、また戦闘スキルそれを持っているレキは相応に戦えるだろう。だが、その背中を守ってやれる奴はいない。そういうことだ。」 ロキは一呼吸置いて、こちらを向く。オレは足元を見たまま微動だにしない。 「ちなみに、一度「夢追い人」になったら全ての「夢喰い人」を殺すまで鬼をやめられないからな。」 彼は話すべきことは全部話したぞ、と言って広場で遊ぶ子どもたちを見ている。オレは・・・オレみたいな奴がレキの背中を守れるはずなんてない。それは、オレが人を、人間を殺す事を極端に嫌うからで。 それでも―・・・。 「あ、なあ、それってレキのじゃねえのか?」 オレが握り締めていたネックレスを差して彼が言った。ネックレスに太陽の光が当たって綺麗に光る。 「昔オレがアイツにあげたんだ。旅で命を落さないように祈りを込めて・・・。」 「そっか。」と言ったロキの顔はいつもより少し優しくみえた。 そうだ。オレはレキが命を落さない様にずっと傍にいるって決めてたんだ。そしてオレは立ち上がってロキの腕を思い切り引っ張った。 「帰るぞ!」 彼は苦笑交じりに「はいはい。」と言って、オレ達は家へ向かって歩き出した。 |