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―奪う事が自分の役目だとずっと思っていた。
流れる血の味も匂いも知り尽くし、少年はもう自身が綺麗ではない事を理解している。 ただ、それでもヒトという生き物は何処かで欲してしまうのだろうか。 薄紫色の瞳を細めた少年が、腰に吊るした二十二口径の自動制銃《Snow Eye》を素早く手に収める。 「あ、ねーえ、お嬢ちゃ」 野太い男の声が止まる。カチリと落ちた引き金に指をあてがう音が聞こえ、男は唾を飲んだ。 「ザンネン、女じゃないよ?」 少年の声と共に、勢いよく飛び出した鉛玉が男の脳天に命中し、奴の命を瞬時に奪い取った。 銃口から流れる煙を眺めつつ少年は、嘆息する。 「失礼にも程があるよ」 そう言った彼は、上着の内ポケットに入れていた懐中時計を取りだし、時間を確認する。 もうじき昼時といった所だ。 周囲を見渡す彼の視界に、背の高い銀髪の青年が入る。 「うわっ、お前また無駄弾使ってんじゃねえかよ・・・」 青年は、少年の元へ駆け寄りつつ嫌そうな顔を浮かべた。青年の名は、リョク。 いや、リョクは青年ではなく少女だ。高い身長と中世的な顔で男に度々間違えられている。 「まあいいや。宿見つかったけど、お前何か食ったか?」 リョクに尋ねられた少年、レキは首を左右に振る。 「ならさ、何か買って宿で食べようぜ」 「そうだね」 そう言ってレキ達は、血の海と化した路地を出て、リョクの見つけた宿へ向かった。 しかし、彼女の見つけた宿は酷い有様だった。 オンボロもいい所まで、とは言ったもので、本当に宿なのかも怪しい程だったのだ。 「外装が酷いだけかもしれない」と淡い期待を寄せたレキは、中へ入った早々リョクの首をあらん限りの力で締め上げる。 「ど、う、い、う、こ、と、か、な、馬鹿リョク」 「ギギギギギブギブ!!! だっ、だってココ以外にはねえんだもん!」 レキの細い腕をバンバン叩くリョクに、レキは疑いの眼を向けている。 だが、リョクの云う通り他に止まれそうな宿はなかった事も事実だ。レキは、彼女の首を絞めていた腕を解き、 「まあ、他に無さそうなのは僕も知ってたからね」 「お・・・ま・・」 リョクの愕然とした顔に、レキはニヤリと笑い、今にも脆く崩れそうな宿の中を進んで行った。 オンボロ宿の部屋は、これまた酷い有様だった。 床は所々穴が空いているし、掃除が行き届いていないシャワー室はカビまみれだった。 唯一の安全地帯が、ベッドだけで、それも一人用のベットが一つだけ。 やむなく二人は、寄り添って眠る事になり、そのまま朝を迎えた。 薄い布団を思い切り蹴り上げ、冷気を全身に浴びる。 「さ、さぶ・・・ぶ・・」 リョクがもぞもぞと動く傍で、レキは手早く身支度を済ませ、まだ眠ろうとする相棒の頬を叩いた。 「リョク、起きなよ。今日は調達で忙しいんだから」 バシン、バシンと容赦なく頬を叩くレキだったが、何度繰り返しても起きる様子の無い彼女に呆れたのか、荷物を手にベッドから降り、 「先に外に出てるよ、リョク。さっさと来ないと先に朝ご飯食べるから」 部屋を出てゆく。その声を聞いてか聞かずか、リョクは飛び上がり、せこせこと身支度を始めた。 オンボロ宿の前で、相棒の着替えが終わるのを待っていたレキの前に、リョクとは正反対の清楚で可憐な愛らしい少女が立った。 首を傾げる彼に、少女は《酷く泣きそうな顔》を見せた。 「え、どうし・・・」 困惑するレキに少女は首を振り、 「朝飯はゴーカにいこーぜー!」 リョクの声を聞いたレキが瞬きをした次の瞬間、少女の姿は消え去っていた。 「あ、あれ・・・女の子がいない・・」 「レキ、まだ寝ぼけてんの?」 「起きてるよ」 訝しげな表情を浮かべるレキを尻目にリョクは、彼の手を取り市場の方へ向かった。 彼らが歩く街は、闇市場が根強く広がる街の一つだ。 国の名は、フェンリール。街の名は、ノアール。 リョクがいい宿を見つけられなかった事も、この街の特徴故だ。 良い噂の流れる街には、良い空気が流れる。反対に悪い噂の流れる街には、悪い空気が留まる。 それは絵に描いた事柄と同じだろう。 ノアールは、後者だ。 市場と言えど、朝食に在りつけそうな露店はなく、ただ只管に武器か怪しげな薬を売る露店ばかりが並んでいる。 レキは、ひとつひとつの店に眼を配りつつ、隣を歩く空腹を堪えているリョクにも気を配る。 「非常食を買い足しておこうか」 「そうしよう・・・今日の分も買っといた方が良い。絶対」 リョクの腹の虫も鳴った事で、レキは手近な露店にて、非常食を買い込む。 >>2 PR
今にも崩れそうな宿屋に、眩い光りが差し込み、外から漏れてくる小鳥達のサエズリが、寝台ですやすやと眠る僕の耳へ届く。それとは真逆なまでに、身体が暑い。一人用の寝台に、無理矢理二人で寝ているせいもあるのだろうが、僕は抱き枕状態に陥っている。
僕の身体を包む以外に細い腕を振り切って床へ転がり落ちると、ひんやりしていて心地良い。 「むにゃむにゃ・・・」 寝台には、まだ心地良さ気に眠るリョクが寝言を言っている。 僕は、着替えを済ませてからリョクをベッドから引き摺り下ろした。 それでも、起きようとせず、土の中で蠢く芋虫の動作を繰り返している奴は、心底気持ちが悪い。 「・・・・・お・・き・・ろ・・ボケエエエッ!!!!!」 僕は、叫び散らしながらリョクを壁へと蹴っ飛ばした。すると目をパチパチと動かせながら、むくりとリョクは起き上がって、もそもそと着替えを始めた。 「・・・・下で待ってるから」 「・・・・別に見ても減らんて」 「・・・・誰が見るか」 「・・・・そう?」 「・・・・そう」 他愛も無い会話を終了させて、荷物を持って部屋を出た。ミシッ・・ミシッ・・というヤバイ音をたてる階段をゆっくりと下りると、宿屋の主人が僕を迎えてくれいるはずもなく、代わりにリョクとは正反対と確実に断言出来るほどに清楚で可愛らしい1人の少女が僕を待ち受けていた。 彼女は、僕の背格好をじっくりと見て 「女の方ですか・・・?」 ええ、そうです・・・って誰が答えるかあああっ!!! 僕は即座に 「よく間違えられます」 とだけ言うと、彼女は「ああっ」と言って下を向いてしまった。 「顔をあげてください」というジェスチャーを送ると、少しだけ上を向いて、あらぬ方向を一瞬かすめ、また僕の顔をじっと見つめてくる。 「夢を・・・夢を・・・・・追いかけるのは・・・駄目・・です」 小さな声だったから、よく聞き取れなかったから、もう一度聞こうとしたら彼女は目の前から姿を消していた。そこへ、欠伸をしながらリョクが現れた。 「なぁ、朝飯はー?」 「食べに行こう」 「おう」 僕達は宿屋を後にして、朝市が行われている通りへ急いだ。このムルタという町の朝市は、活気があって色々な物を売っていて、活用出来そうなものが溢れかえっている。適当な価格の物資を売る店を探し当て、適当な朝食を取り、非常食を買うため露天へ向かった。 「弾薬ありますか?」 「あるけど、もう少し先にある店の方が安くて品もいいよ!」 「あの・・・そんな事言っても大丈夫ですか?」 「ああ!!」 並以上に親切な店の主人に教えられた店へ着いた時、僕の後ろにいるはずのリョクがいなくなっていた。あの阿呆、また一人でどこか行ったな。 弾薬等を必要な分だけ買い揃え、店から出ると、正面にある美しい教会のドアの所に立っているリョクが神父らしき人物と話している。 僕もそこへ行こうとした。けれど、それは今朝宿屋で出逢った少女が前に立ちはだかって・・・。 「いけませんっ!!!」 あまりにも大きな声だったために、周りを歩いていた民間人が僕を睨んできた。このままの状態を引き伸ばすのは、自分的に嫌だ。 仕方なく、僕は少女の手を引いてリョクのいる教会へ走った。すると、阿呆リョクが僕を見て 「お前、ロリコン?」 とフザケタ単語を言った。 「五月蝿いよ、リョク」 「じゃあ、ソイツお前の何だよ」 「僕だって知らないよ!!!」 ぎゃあぎゃあ言い合いを始めようとする僕達を制したのは、他でもない 「私は、千里=ユメと申します!!!!喧嘩は止めて下さい!!!」 少女だった。そして彼女の名前は、ユメ。何か、色々ありそうだなぁ・・・・この子。そんな彼女に巻き込まれるだろう僕もどうかと思うよね・・・。 「とにかく、ついて来てください!!!」 「え、あ、うん?」 僕とリョクは、少女について行く事となった。
少女の後ろをついて歩く事には、何の意義も唱えないけど周りの人が僕達をじっと見てくる事は不愉快極まりない。
それにしても、ユメさんは何者なんだろうか。 まさか、リョクが何かしたのだろうか・・? 「オレ、何もしてねーからな」 「誰もキミに何も言っていないんだけど」 「そうか?」 勘がいいのか悪いのか分からないよ。そうして着いた建造物に目を奪われた。何百年も昔に建てられたであろう建造物で、中に入ると至る所に散りばめられた装飾はいまだ輝かしく光りを放っているではないか。 その様な類に目を奪われている僕へユメさんが 「触ると何が起きるか分かりません・・・から」 と言った。いや、何が起きる分からないって・・どうなのソレ! ま、まぁ・・ここに住んでるわけじゃないから関係無いけどさ。 「ユメさんはココに住んでるとかじゃないよね?」 それとなーく聞いた僕にユメさんは言った。 「え? 普通に住んでますよ」 その答えにリョクの足が止まった。多分、ありえねーとか思ってたんだろうなぁ。可哀相にリョク。 そしてリョクを2人掛かりでズルズルと引きずりながら、やっと部屋に着いた時には、もう夜になっていて・・・。 「泊まられますか?」 出来ればNO!と答えたいけど、阿呆リョクが固まってるから。 「お願いします。と、その前に色々聞きたいです」 「はい。え・・・と、私は・・夢を告げる者です」 ん? 夢ってアレだよね? ノンレムスイミンとかいうやつに入った時見れるアレ? 僕は、首を傾げた。それもほぼ直角に。直角になっている首を無理に元に戻すと、ユメさんは近くにあった適当なイスに座っていた。・・・いつの間に。 「夢を告げるっていうのは、どういう・・」 今日最大の疑問は、今日中に何とかしておかないといけないから。とは言っても、一番どうにかしておかないといけないのは、依然として固まったままのリョクを動かす事なんだろうけどね。 「私は、近い将来に起こる不幸が視えるんです」 それって予知夢かあっ! おっと・・危ない危ない、取り乱す寸前だった。いや、もう乱してるか。 「で、僕たちの不幸が視えた・・・と?」 「・・・です。すみません」 深々と頭を下げるユメさんに、自力で復活したリョクが 「頭上げたら?オレら、もしかしたらアンタのお陰で不幸から逃れれるかもしんねーんだしさ」 たまには良い事を言ったリョクを褒めてあげようかと思ったら、 「逃れる事は出来ません・・・貴方達は―・・・」 「オレ、仁義=リョク」 「僕は、推古=レキ」 「え、あ、はい。えと、レキさん達は必ず不幸へ向かいます」 てことは、旅もここで終末って事になるわけか。それは、それで楽だけど僕は一応旅人だから駄目だよ。 「じゃあ、それまでお世話になろうかな。ね、リョク」 「ああ。でも、部屋は別々じゃなくていいから」 「え、あ、は、はい・・・?」 ユメさんは戸惑った顔で僕達を交互に見る。その戸惑った顔を見て、久しぶりに笑った気がした。 |