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全てを話し終えてオレはイスに座るレキを見る。昔話はオレの全てを語っていないと思う。どちらかと言えばそう・・・サラの話の様に。レキはオレの方を向かず、俯いたまま。ファルセがオレを見て話を続けろを催促する様な目を向ける。壁に触れた手を下ろし、オレはまた言葉を繋いでいく。



命を奪われて、オレが目覚めた場所は見たこともない場所だった。ただとても大きな門が目の前にあって、オレは前後を見る。前には門。後ろには同じ年齢くらいの少年。少年はオレを見て呪文の様な言葉を並べていく。

神と定められぬその存在

この世界を守る者となり

戻る世界現われるまでは

我が元で生き続ける定め

契約破棄は許されぬ旋律

この言葉に乗せ従えるか

汝は冥界番人神となりて


少年はオレを見る。懐かしい、この言葉に意味があるのをオレは知ってる。だからオレは少年に頭を垂れ、言った。
「我が名は冥界番人神=ソラ。この身を持って貴公に仕えることを誓う」
従うべきだと思った。それしか生きる術がないと思った。
少年は頭を上げろと言い、心底面倒臭そうな顔で
「俺は冥界神王=オーリだ」
それが冥界という世界がオレの世界になった瞬間。それからは本当に自分の名前になった冥界番人をした。毎日毎日、死者が門の所へやってきては、オレに通貨を払い冥界へ入っていく。稀に違法をしている者を見つければ、即刻排除。そんな生活が6年も続いたある日、オレは冥界神王=オーリに冥界城へ来るように言われた。そこには冥界で冥界門と呼ばれた巨大な扉が現われていた。オーリは相変わらず面倒臭そうに扉の向こう側を見て、そして面倒臭そうに言った。
「交代して来い」
と。
「はあ? 何考えてんだよ。オレ番人なんだぞ!? 誰が代わりやるんだよ!!」
「だからお前の双子の姉と交代して来いって意味だろうが!!! クソボケ!!!」
「じゃあ、オレにあの世界に帰れってことかよ!!!!」
オーリとオレは威嚇している犬の様に吠えるが、オーリは静かに落ち着き、
「そうだ。時は満ちた。元来、番人を務めるべきだったのはお前の姉だ。お前は来るべき者ではなかった。その時が来たのは分かるだろう。世界へ戻ることが出来るのは、もう二度とない。交代して来るんだ、ソラ!!」
力強い言葉に俺は背中を押され、扉の向こう側へ飛び込んだ。その途中、サラの意識とオレの意識が交差した。人間の世界へ戻ったオレは心の中でサラが呼んでいることに気づいた。今、この瞬間に起こっていることがサラの中から流れてくる。目の前には見知らぬ少年がいて、そいつはオレを抱え池めがけて飛び降りる。サラのフリをするオレに少年は気づかない。
扉は閉まっただろうか・・・・。
サラは大丈夫だろうか・・・・。
オレは只管にサラの真似をする。似ているだろうか、という不安を隠しながら。そしてオレは少年の知り合いに長い髪を短く切られ、新しい名前を貰った。それは今のオレの名前。




「―――これでオレの話は終わり」
完全に話し終えたオレはファルセとレキを見た。ファルセは何やら関心して、レキは考えごとをしてる。そして、
「それでキミ達はどうするの? 人間の世界に存在出来るのは一人で、もう一人は冥界に存在しなきゃならないんだよね?」
すごく落ち着いた様子でレキは言った。まるで、こんなことになると分かっているかの様に。
「オレが戻――」
『戻るのは私よ』
戻ると言おうとしたらサラの声がオレの声に重なった。しかもサラの姿がオレの姿とは別にある。こんなこと、ありえないのに!
サラの姿は実体化して、幽霊の様に透けていない。どうして?
「確かにサラが戻る方がいいだろうな」
レキが目を見開いている。その方向に、不敵な笑みを浮かべる青年が壁にもたれて立っていた。
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「元来サラがこっちに初めから来るべく者だったのだからな」
青年はさながら現代の魔王的な笑みを浮かべ、クスッと笑った。
「ま、決めるのは双子に任せておくとして、俺はテメェ等と話しでもしてやるよ」
青年はそう言って、ファルセとレキを従えて部屋から出て行く。青年の名は、冥界神王=オーリ。冥界の王でありながら、神界最高神。そんな彼がどうしてここへ来たのか・・・それはサラに聞くべきなんだろうか。オレとサラだけが残った部屋は静かだ。
『どうして私が実体化しているか、分からないわよね』
「全然分からない」
目を背けて言ったオレにサラは優しく笑い、
『貴方が命を絶った時、貴方の肉体は貴方の魂と一緒に冥界へ渡ったのよ。事実上、神=ソラという人物の存在は絶命したと記録に残されたわ。そう決めたのはお父様とお母様よ。二人はソラ、貴方の能力がどれだけ協力なものなのか知っていたわ』
サラの言っている意味がよく分からない。
『難しく言っても分からないわよね・・・・つまり、貴方の肉体、魂は決して死んでいないのよ』
正直なところ、冥界に行った時点で可笑しいな、とは分かってたんだ。冥界神王=オーリが妙にオレの体の心配をしてたこととか。
「じゃ、じゃあっ! この肉体はオレの体ってことか!!?」
『そうよ・・・レキと旅をしてきた、その体、その魂、その記憶、全ては貴方のものよ・・・リョク』
実体化したサラは泣いていた。でもその涙は悲しいものじゃないんだ。もう悲しい思いはしなくていいんだ。オレは、オレより少し身長の低いサラをそっと抱き締めた。
「ごめん、ごめんな、オレがあの時消えなかったら、サラは辛い思いをしなくて良かったのに」
サラは何も言わなかった。オレもそれ以上何も言わなかった。だってオレ達は双子だから伝わると思った。オレはサラから離れると、サラは目を見開いて
『・・・・いけないっ!』
と言、哀しみの旋律を詠い始めた。オレはサラを抱え、祭壇がある所まで階段を駆け上がる。そこには魔剣「オーディン」の刃を鮮血に染め上げ、高らかに魔界の歌を詠唱するオーリがいた。そしてオーリの目線の先には、ボロボロになったレキの姿があり、その後ろにはファルセが細く息をしていた。
「テメェッ!!!」
オレはサラを祭壇の所に立たせ、腰に差していた日本刀「業火」を抜刀して、オーリへ向かった。剣と刀がぶつかり合い、高い音が響き、パキンという音を立て、「業火」の刃が簡単に折れた。世界三大名刀じゃねえのかよ、コレ!!!!!!
オレはもう駄目だと思った。完全に死ぬわ。と。

『氷壁』

オーリとオレの間に突如氷の壁が出来上がり、ヴァイオリンの音色が教会を包む。ただ静かにではなく、壮大に、力強く。
「誰だお前等は」
氷の向こう側で怒りに震えたオーリがオレの背に自分の背を当ててクスクスと笑う奴と、もう一人の奴へ言う。
「本日付けでぇ、夢追い人になった新参者だけどぉ~?」
声と口調に覚えがあって、オレは安堵した。
「神様だか、何だか、知んねえけど俺等の仲間に手ぇ、出した罪高ぇぞ?」
果敢に挑発する楽しげな声。そんな二人の声は頼もしく、
「レキの所に行きなさい。リョク」
力強い声はオレの背を押した。オレは、後方で何とか立っているレキの元へ向かう。背後に立っていた新しい夢追い人は手にした、とても美しい装飾の杖を掲げ、ヴァイオリン奏者へ告げる。
「おねがぁ~ぃんっ!」
「任せろ!!!」
教会の天井が吹っ飛び、鐘が音を立てて地へ落ち、そこから竜巻が発生した。起こっている光景に絶句しながらも、オレはレキの元へ行く。
「・・・レキッ!」
「どうしたの? リョク」
「どうしたって・・・お前傷だら―――・・・!?」
今さっきまでボロボロになっていたレキの体は、何ともなっていない。それどころか、ピンピンしてやがる。そのうえに、ファルセがレキの背後でニヤニヤと笑っている。天空神ファルセは俺達に
「西の方角へ進むことをお勧めしますよー・・・」
と言い残し、姿を消した。呆気ないファルセの登場と消え方にオレとレキは一瞬呆然とした。でも今は彼がどうとか、いうことではなくて魔王を倒すことが肝心だ。レキはオレの手を握る。オレもレキの手を握る。
そして前で戦ってくれている夢追い人二人の止める声など聞かずに竜巻へ歩み、通過し、冥界神王=オーリの前で止まった。
竜巻は力を失くしている。オーリの背後には扉が開いて、サラが扉を閉める大きな鍵を手にしていた。
「死ぬ覚悟でも出来たのか、貴様等は」
オーリはオレ達二人を見て言うけど、オレの視線はサラへ向いてる。それをレキはちゃんと分かってくれてるから、オレはオレの武器「業火」を彼に渡し、
「頼む」
と言い、オーリの横を通り大きな鍵を持つサラへ立った。
はオレを止めなかった代わりに、レキと対峙して戦っている。
『どうしたの、リョク』
扉を固く固く閉めるための鍵を抱えるサラの頬にそっと触れて、オレは言う。
「今までありがとう・・・姉様」
目の奥が熱くなるのが分かって、オレは空いている左手で目を隠した。
『私こそ、ありがとう。貴女がいなければ、私の心は持たなかったわ。何かあれば扉を開いて』
何かあれば扉を開く。その声にオレは背中を押された様なそんな気がした。サラは儚く笑っていた。その微笑は現世で言われていた【嘆きのサラ】の異名に相応しいものだった。
『扉の鍵を開けるときの言葉は忘れないで・・・』
そう言ってサラはオレの手を自分の頬から離し、
『オーリ、時間が無いわ! さっさと行くわよ!!』
冥界神王であるオーリは、レキと何かを喋りながら戦うフリをしていたらしい、二人はボソッと何かを言っていた。
「別れの挨拶はもういいのだな」
「別に永久の別れじゃねえだろ、オーリ」
「フッ・・・戯言だな。では行こう、サラ」
サラは何も言わなかった。扉の向こう側に消えていくオーリに続いて静かに消えていくオレの姉。レキはオレの隣に立って扉の向こう側をじっと見つめていた。チラッと彼を見たら、視線に気づいたのかオレの顔を見て
「バーカ」
と言った。
「なっ!?」
「さーてと、馬鹿は放っておいて食料でも調達しに行こうー、メツ、ソウ!!」
レキは半壊し掛けている教会の扉の所で立つ新しく夢追い人になった二人の名前を呼んで、本当にオレを置いて食料調達へ出かけようとしている。
置いてかれたら確実に迷子になるから、オレは急いで三人の所へ向かう。
でもその前に



「さよなら」



扉の前で一礼した。
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