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水飛沫が勢いよく上がり、俺と姫様は池の水に濡れた。姫様を池の中に立たせ、ザブザブと音を立てながら俺池の中を歩く。すると綺麗な水の池には小さな魚がいて、それらが俺の足から逃げていく。
「何故殺さないのですかっ! 私はこの国に相応しくない者なのですから早く殺しなさいっ!」 白いドレスが水に濡れて別の物になろうとしているが、姫様はそんなことはどうでもいいらしい。とにかく、自分の命を早く絶ってくれと俺へ請ってくる。 「あ、また逃げられた」 姫様の言葉と裏腹に俺は池に手を突っ込んでは魚を捕まえようと試みる。 「聞いているのですか!!?」 「聞いてる。殺して欲しいんだろ?」 「え、えぇ、そうですわ!」 「殺してあげる」 そう言って短刀「結界」を右手に収め姫様の頭部目掛けて投げると、姫様は急ぎ腰を下ろし刃から逃れた。本人が一番驚いているが、俺の左手にはまた「結界」が握られていて、それはまた彼女へ向かい飛ぶが、それをまた避ける。姫様は俺を見る。殺し屋の俺だけを。そして池から逃げようとするが、俺は彼女の細い腕を掴み引き寄せる。 「はっ、離しなさい! 私が誰だと思っているのですか!?」 「アシュレ王国第一王女、哀=サラ。でもその地位はもう無いも同然」 背中越しに姫様の鼓動が聞こえる。俺よりも身長が少し高い彼女は、俺へ尋ねる。 「私はどうすれば宜しいのですか・・・?」 「俺が殺してやろうか?」 「ですからっ!!」 「冗談。アンタは俺が買ってやるから♪」 そう言った俺は姫様の腕から手を離し、池から上がる。そこには人間の屑どもがいた。そいつ等は俺の名を叫びながら武器を向けてくる。 その武器は銃。無数の銃弾が真っ向から向かい来る中で俺は動かない。何故なら俺が動けば姫様に銃弾が当たってしまうから。すると人間の一人が 「ウゼーなあ、殺し屋のくせに嘆きのサラ側につくなんて、ゲヒャヒャ」 嘆きのサラ・・・? 俺は急いで姫様の方へ向いた。すると姫様は静かに頷き、顔色を変えて俺を指差した。俺の背後にはさっきの人間が撃ち放った銃弾が俺の狙って来ていたけれど、その間に突如冥界の扉が姿を現した。 姫様は急ぎ詠ってくれたらしい。 その扉のお陰で俺は命を取り止めることが出来た。でも姫様の体力は途中で途切れ倒れた。俺はまた姫様を担ぎ、今度は場外へ逃げた。向かうべき場所はあのオカマが待っていてくれる桟橋だ。 桟橋に着くとオカマが手を振ってくれたが、その顔は引き攣っている。オカマの両脇には魔剣「ラグナロク」を肩に担いでいる悪魔騎士のシェルとにこやかな笑顔でいる言葉士のコーマがいる。それに加えてコーマ側に、全身を鮮血に染めている死神二人と怪力少女がいるからだ。そして俺はずぶ濡れになって女を一人担いでいる。そんな光景に突如入れられたなら、誰だって怖いだろう。でも悠長なことをしている暇はない。オカマは俺に 「い、行くわよ!!!」 と焦りながら言い、俺が担ぐ女に大きなシーツを被せ、先陣を切って俺達を先導して行く。 PR
闇が少しずつ晴れていく中をオカマの後を追い、走る。街人はまだ誰一人として目覚めていないらしく、街は平然として俺達以外の気配はない。
オカマは足を止め、小さな家の小さな扉を開け放ち、俺達全員を入るように示し、最後に自分が入った。足を踏み入れたのは、外観と相応の広さの家。俺は担いでいる姫様を下ろし自分の足で立たせ布を取ってやった。 するとオカマが悲鳴を上げそうな顔をし、口を自らの手で抑えた。 ずぶ濡れの女の正体が、この国の姫君だと認識したオカマは、かなり驚いて、急ぎクロゼットから男物の衣装を取り出し、ハサミやら櫛やらタオルやらを揃え始め、姫様を部屋の奥へ連れて行く。セナは手早く二人の後を追い、全身を鮮血に染めている死神二人は互いを見て家の外へ出てゆき、シェルとコーマも外へ出た。狭いリビングに残された俺は、テーブルに置いてある紙束に目をやる。それには、赤いペンで書かれた、おそらくオカマへの罵声。暇を持て余す様に部屋を物色しながら、部屋の奥を覗こうとすると、そこにはエナがいて 「駄目ですよ~、四代目~。女の子は色々準備があるんですからねー」 とか何とか言い、俺をリビングへ戻し、イスに座らせ、自分は俺の向かい側のイスに腰を降ろす。 「四代目は何でお姫様を連れて来たんですか~?」 ニヤニヤと笑うセナに俺はどうでも良さそうな顔で答えてやる。 「四代目、レキ様の気まぐれさ」 「ふ~ん。でも助けてあげたいとかはあったんでしょ~?」 「無い」 「うそっ!」 「本当」 セナは俺が本当。と言ったのが絶対に嘘だと信じている。全く失礼な奴だ。そんな阿呆な会話が数十分続いていると、部屋の奥から二つの足音がこちらへ近づいてきた。セナはそちらを向いて突如立ち上がった。何事かと思い、そっちへ俺も向く。そこには腰まで伸ばした銀色の綺麗な髪を短くカットされていた。そして身に纏う服も今までのものとは違い、完全に男物の服だ。黒のスーツに紅のネクタイを緩く締め、シャツとネクタイを安全ピンで留めている。元々身長の高かった姫様にその格好はあまりにも自然過ぎて、どうも府に落ちない。でもセナとオカマは満足気な顔をしている。それならいいか。と思い俺は何も言わないことにした。 そして姫様は依然としてイスに座る俺を見てくる。そうすると目が合い、気まずくなったのか目を逸らす。そんな行動が意地らしくなったのか、それとも何か別のことを想像したのか、セナとオカマはウフフと笑いながら家の外へ退散しようとする。 「あ、セナ」 「何ですか~?」 「準備しとけ」 「・・・了解」 セナはオカマの背を押して部屋の奥へ姿を消した。リビングに残った俺は姫様にイスへ座るように促した。大人しくイスに座った彼女は俺へ質問を投げる。 「私はどうなるのですか?」 俺は机に突っ伏せて、どうでも良さそうに言う。 「アンタ、今日から仁義=リョクって名前な。そんで一人称はオレ。以上」 姫様からの返答は無い。仕方なく言葉を続けてやる。 ただし、今度は彼女の隣のイスに座りなおし、彼女の顔を窺うようにして。 「俺と一緒に旅をしよう。今までの悲しい記憶なんて忘れられるくらいの旅を。でもそれをするためには、アンタは名前を隠さなければならない。でも俺と旅なんかしたくなければ、好きな所へ行けばいい。それだけ」 そう俺が言うと姫様はとても綺麗な笑顔を俺へ向けて笑い 「・・・名前、聞いてない」 「推古=レキ」 「ヨロシク、レキ・・・」 「こちらこそ、よろしく♪」 仁義=リョクという名前になった元姫様は笑う。そこへセナとオカマが戻ってきた。オカマの手には大きな鞄があるが、本人は俺と目を合わせようとしない。構わず俺はオカマへ一喝する。 「十字=マリア!!!」 「は、はひっ!」 「キミは、本日付けで殺し屋ヴォルフの一員。いいね、分かった?」 「で、でも・・・・アタシ・・・」 「問答無用。セナ、連れて行って」 「は~い。でも四代目、何で今までと口調違うわけ~?」 「今日から僕は今までの僕と違うからねー。ほら、さっさと行く!」 「りょ~かい」 セナは軽々とオカマのマリアと彼の鞄を持ち、家を出て行く。リョクもそれについて行こうとして、足を止め 「置いてかれる・・・ぞ? レキ。これで口調あってる?」 「・・・あってんのか? だよ。馬鹿リョク」 「なるほど・・・って馬鹿じゃないっ!!!」 「はいはい」 リョクは僕の頭を叩きながら家を出る。そこには皆がいた。 オレはレキに「仁義=リョク」と名付けてもらった瞬間から意識が生まれた。 それがオレの・・・私達の昔話― 十九話 昔話 END
全てを話し終えてオレはイスに座るレキを見る。昔話はオレの全てを語っていないと思う。どちらかと言えばそう・・・サラの話の様に。レキはオレの方を向かず、俯いたまま。ファルセがオレを見て話を続けろを催促する様な目を向ける。壁に触れた手を下ろし、オレはまた言葉を繋いでいく。
命を奪われて、オレが目覚めた場所は見たこともない場所だった。ただとても大きな門が目の前にあって、オレは前後を見る。前には門。後ろには同じ年齢くらいの少年。少年はオレを見て呪文の様な言葉を並べていく。 神と定められぬその存在 この世界を守る者となり 戻る世界現われるまでは 我が元で生き続ける定め 契約破棄は許されぬ旋律 この言葉に乗せ従えるか 汝は冥界番人神となりて 少年はオレを見る。懐かしい、この言葉に意味があるのをオレは知ってる。だからオレは少年に頭を垂れ、言った。 「我が名は冥界番人神=ソラ。この身を持って貴公に仕えることを誓う」 従うべきだと思った。それしか生きる術がないと思った。 少年は頭を上げろと言い、心底面倒臭そうな顔で 「俺は冥界神王=オーリだ」 それが冥界という世界がオレの世界になった瞬間。それからは本当に自分の名前になった冥界番人をした。毎日毎日、死者が門の所へやってきては、オレに通貨を払い冥界へ入っていく。稀に違法をしている者を見つければ、即刻排除。そんな生活が6年も続いたある日、オレは冥界神王=オーリに冥界城へ来るように言われた。そこには冥界で冥界門と呼ばれた巨大な扉が現われていた。オーリは相変わらず面倒臭そうに扉の向こう側を見て、そして面倒臭そうに言った。 「交代して来い」 と。 「はあ? 何考えてんだよ。オレ番人なんだぞ!? 誰が代わりやるんだよ!!」 「だからお前の双子の姉と交代して来いって意味だろうが!!! クソボケ!!!」 「じゃあ、オレにあの世界に帰れってことかよ!!!!」 オーリとオレは威嚇している犬の様に吠えるが、オーリは静かに落ち着き、 「そうだ。時は満ちた。元来、番人を務めるべきだったのはお前の姉だ。お前は来るべき者ではなかった。その時が来たのは分かるだろう。世界へ戻ることが出来るのは、もう二度とない。交代して来るんだ、ソラ!!」 力強い言葉に俺は背中を押され、扉の向こう側へ飛び込んだ。その途中、サラの意識とオレの意識が交差した。人間の世界へ戻ったオレは心の中でサラが呼んでいることに気づいた。今、この瞬間に起こっていることがサラの中から流れてくる。目の前には見知らぬ少年がいて、そいつはオレを抱え池めがけて飛び降りる。サラのフリをするオレに少年は気づかない。 扉は閉まっただろうか・・・・。 サラは大丈夫だろうか・・・・。 オレは只管にサラの真似をする。似ているだろうか、という不安を隠しながら。そしてオレは少年の知り合いに長い髪を短く切られ、新しい名前を貰った。それは今のオレの名前。 「―――これでオレの話は終わり」 完全に話し終えたオレはファルセとレキを見た。ファルセは何やら関心して、レキは考えごとをしてる。そして、 「それでキミ達はどうするの? 人間の世界に存在出来るのは一人で、もう一人は冥界に存在しなきゃならないんだよね?」 すごく落ち着いた様子でレキは言った。まるで、こんなことになると分かっているかの様に。 「オレが戻――」 『戻るのは私よ』 戻ると言おうとしたらサラの声がオレの声に重なった。しかもサラの姿がオレの姿とは別にある。こんなこと、ありえないのに! サラの姿は実体化して、幽霊の様に透けていない。どうして? 「確かにサラが戻る方がいいだろうな」 レキが目を見開いている。その方向に、不敵な笑みを浮かべる青年が壁にもたれて立っていた。 |