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エリア10で大変な目に遭ってから二日が経過した。あの日エリア10から戻ってきた僕たちは疲れ切っていたし、僕は僕で意識がほとんど無く、左足に負った傷が思ったより悪く、翌朝診察してもらった医者に「完治するまで自宅安静」と宣告された。ぼんやりと庭を眺めている視界の端にスズの姿が映った。
「何か用ですか、スズさん。」
「元気かなーと思って来ただけさ。」
スズは僕の左隣に座って同じように庭を眺める。
「リョクがレキなんか大嫌いだーって言ってたけど、アレどういう意味だと思う?」
「さあ? 嫌いなら嫌いになればいいんじゃないの? 僕の知ったことじゃないよ。」
スズは、はあ、と溜息をつく。
「でも。リョクに渡してほしいものがあるから、届けてくれない?」
僕がそう言うとスズの顔は途端に明るくなる。
彼は、ユーラシア大陸にある「捜索屋」と呼ばれる組織の中でもトップクラスの一人だ。その彼に一人の人間を捜し出すことなど意図も簡単な事だが、それでも嬉しそうに引き受けてくれた。
「渡すものは、コレ。」
僕は首から下げていたネックレスをスズへ渡す。彼は僕の家を後にし、僕はまた庭をぼんやりと眺める。そこへロキがお菓子を頬張りながらやってきた。
「ねえ、ロキ?」
「何だ?」
ロキはお菓子が入っている器を僕と自分の間に置く。
「僕は特に何も考えず「夢追い人」になった。でも本当の意味での「夢追い人」を知らない。この際だから教えて欲しいんだ。」
庭を眺める目をロキへ向ける僕に彼は少し考えつつゆっくり話し始めた。
「「夢追い人」は、今ある世界を破壊して新しい世界を創造しようと動いている「夢喰い人」を止められる唯一の存在だ。そして「夢喰い人」は「夢追い人」を自分たちを追いかけることから、「鬼」と称した。それがお前だ。」
ロキは庭を眺めて言い、もう一つを言いかけようとして、それを母さんが止めた。
「「夢追い人」は今世界に四人だけいるの。だけどそれだけじゃ「夢喰い人」を止める事はできなくて、母さん達は、レキ、貴方に何も教えずに「夢追い人」として歩く道を選ばせてしまったのよ。そして、一度「夢追い人」となった者は、全ての「夢喰い人」を殺すまで「鬼」という存在の放棄を認められない。」
母さんの声は、いつもより何十倍もの重みがあったけど、全部を言い終えると、いつもと寸分違わない表情でニッコリと微笑んだ。ロキは僕の隣でお菓子をただ静かに食べ、僕はぼんやりと庭を眺めていた。


レキはいつも、いつだって一人で悩んだり考えたりして、オレには何も相談してくれない。
オレは馬鹿で要領も悪いけど、話を聞いたりなら出来る。
セントラルに来て、レキは忙しそうだった反面オレは普段とそう変わりなかったけど、セントラルはオレよりずっと有名な人間が多くて、余計に一人ぼっちに感じた。
「仁義=リョク!」
道を歩いていたオレを誰かが唐突に呼び、振り返ると楽観=スズがそこにいた。コイツは、レキによく似てて、初めて見た時レキと間違って、オレは酷く怒られたっけ。
「レキから預かりもの!」
スズはそう言ってオレにネックレスを渡した。それは昔オレがレキに渡した物だった。
「アイツ、何か言ってたか?」
少し俯き加減で言うオレに対してスズは
「さあ? 嫌いなら嫌いになればいいんじゃないの? 僕の知ったことじゃないよ。だってさ。」
嫌い・・・かよ。
「あ。そういえばリョクって夢追い人じゃないんだよね?」
何だ、突然。
「ああ。オレは魔剣士だからな。」
スズはオレの顔をまじまじと見る。ちょっと身を引くオレに彼は、
「それならリョクは選ばないといけないね。じゃあ、ボクは別の仕事があるからー!」
少しだけ低く落としたトーンの声で言って足早にオレの前から姿を消した。
「選ばないといけない」という言葉にオレは引っかかった。オレはレキと一緒に旅をしてただけで、レキと違って夢追い人じゃない、ただの魔剣士だ。レキに会うよりも、こういう時は・・・。
「俺が適任だろ?」
まぶしいばかりの笑顔を周りにまき散らしているロキが突如目の前に現れた。そしてオレの手を引き広場へと歩いてゆき、適当なベンチに腰を掛ける。隣に座る彼の顔は「何があった?」という顔だ。
「スズが言ってたんだ。オレは何かを選ばないといけないって。」
オレ自身、自分で口に出した言葉の意味が何を含んでいるのか分からない。すると彼はゆっくりと話し始めた。
「世界で最も有名な殺し屋当主レキの今の職業は、夢追い人。この職業は、この世界を破壊し、新たな世界を創造しようとしている「夢喰い人」を止められる唯一の存在だ。お前にも分かるように言えば、夢喰い人と夢追い人は、遊びで言う「おにごっこ」に似たものをしていて、その鬼が「夢追い人」にあたる。分かるか?」
一度首を縦に振るオレに、ロキは続ける。
「夢追い人は、今この世界に4人だけだ。そして、夢喰い人と戦う為に必要な特殊な能力、また戦闘スキルそれを持っているレキは相応に戦えるだろう。だが、その背中を守ってやれる奴はいない。そういうことだ。」
ロキは一呼吸置いて、こちらを向く。オレは足元を見たまま微動だにしない。
「ちなみに、一度「夢追い人」になったら全ての「夢喰い人」を殺すまで鬼をやめられないからな。」
彼は話すべきことは全部話したぞ、と言って広場で遊ぶ子どもたちを見ている。オレは・・・オレみたいな奴がレキの背中を守れるはずなんてない。それは、オレが人を、人間を殺す事を極端に嫌うからで。
それでも―・・・。
「あ、なあ、それってレキのじゃねえのか?」
オレが握り締めていたネックレスを差して彼が言った。ネックレスに太陽の光が当たって綺麗に光る。
「昔オレがアイツにあげたんだ。旅で命を落さないように祈りを込めて・・・。」
「そっか。」と言ったロキの顔はいつもより少し優しくみえた。
そうだ。オレはレキが命を落さない様にずっと傍にいるって決めてたんだ。そしてオレは立ち上がってロキの腕を思い切り引っ張った。
「帰るぞ!」
彼は苦笑交じりに「はいはい。」と言って、オレ達は家へ向かって歩き出した。
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